製造業・ものづくり企業のM&Aや事業承継を支援するセレンディップ・ホールディングス株式会社「新着情報・コラム」ページ

新着情報・コラム

NEWS & COLUMN

【コラム】M&Aの明と暗。事業成長の手段と高いリスク

セレンディップ・ホールディングス株式会社 シニアマネージャーの和田です。
弊社の強みでもある「PMI」をテーマにしたコラムの執筆担当となりました。
当社グループで得たPMIに関する知見をもとに執筆して参りますので、PMIの知識を身に着けたい方やPMIに興味がある方の参考になればと思います。
今回はPMIの中でも「DD(デューデリジェンス)」についてです。

1.なぜM&Aを実施するのか?(M&A実施の一般的な目的)

皆様はM&Aをお考えですか?
地球環境への配慮を最重要課題と捉えるような社会の価値観の変化、業界の垣根がなくなり今まで他業界と思っていた企業が競合になるなどの事業環境の変化、IoTやAIなどテクノロジーの急激な進化など、事業環境は日に日に変化し、それに対応していくことが必須となっていきます。このような環境変化に対応する手段の一つとしてM&Aがあげられます。

M&Aをする理由としては、一般的に以下の3点があげられます。
①事業承継などの後継者問題の解決を目的としたM&A
②新規事業などの会社の成長戦略を目的としたM&A
③経営再建などを目的としたM&A

2.M&Aの活用状況は?(M&Aの潮流)

ここで、M&Aについて最近の潮流を確認したいと思います。
日本商工会議所「中小企業におけるM&Aの動向調査(2020年)」によると、中小企業におけるM&Aの取り組みについて、買い手としてM&Aを実施したことがある事業者の割合は1割弱、実施を検討した事業者を合わせると約15%となるとのことです。
これが、売上高10億円超の企業になると4割弱に達します。
しかも、昨今のコロナ禍でも、「M&Aを積極的に検討」、「コロナ前後で変化なし」は6割以上となり、M&Aに対する前向きな姿勢は変わっていません。
この調査から、中小企業でもM&Aが活性化しているという状況が見受けられます。

一方で、M&Aは非常に難易度の高い手法と言われています。デロイトトーマツコンサルティング株式会社「M&A経験企業にみるM&A実態調査(2013年)」によると、実際にM&Aを実施して成功したと回答している企業は、回答企業の3分の1程度となっています。

裏を返せば、M&Aを実施した企業の3社に2社が成功していないと考えているのです。
ではなぜM&Aが成功していないと考えているのでしょうか?
主に4つの理由が挙げられます。

①企業買収自体の目的化
②M&Aで「何を得たいか」という戦略性の欠如
③不十分なデューデリジェンス(DD)
④不十分な統合(PMI)

上記の①、②、④は、実はDDで十分に「適正評価」ができていれば防ぐことができるものなのです。

DDはM&Aの要
3.DDとは?(DDの定義)

本コラムを目にとめていただいた方は、少なからずDDという言葉をお聞きなったことがあると思います。
DDとは「適正評価手続きのこと。投資家が投資をおこなう際、もしくは金融機関が引受業務をおこなう際に、投資対象のリスクリターンを適正に把握するために事前におこなう、 一連の調査のこと」となります。

4.なぜDDをするのか?(DDの目的)

では、「適正評価手続き」とは何でしょうか?どんな場面に使用するのでしょうか?
M&Aは、一般的に以下のようなステップにて実施されます。

ステップ1:事業成長を目指したM&A戦略の立案
ステップ2:買収候補先の選定
ステップ3:買収候補先の適正評価
ステップ4:買収手続き
ステップ5:PMI

ステップ3がDDにあたりますが、具体的に何を「適正評価」するのでしょうか?
買収するにあたってはいくらで買収できるかということが最大の関心事の一つですので「買収価格」を適正評価することになります。
一方当社ではM&Aで最大の効果を得るために、「買収価格」に加え以下の「買収リスク」と「PMIに向けた課題」の2点も加えて「適正評価」すべきと考えています。

適正評価の観点

買収価格」とは、買収候補先をいくらで買うか、ということですが、特に非上場企業は適正な価格を設定することが困難です。よっていかに双方納得感がある金額で買収するかがポイントとなります。当社では「双方納得感がある価格」を、「表面上の企業価値」-「企業の見えない負債」-「買収後に発生する費用」と考えています。これらの「企業の見えない負債」と「買収後に発生する費用」を明確にすることが買収価格を適正評価することとなります。

買収リスク」とは、買収候補先をM&Aすることで事業成長が図れるか、むしろ経営リスクとならないか?ということです。つまりM&A戦略との整合性です。完全にM&A戦略に一致する企業が見つかればよいですが、そのようなことはほぼあり得ません。もちろんポジティブな面ありきですが、一方ネガティブな面も当然もあります。そのネガティブな面が許容できる範囲かを見極めます 。また海外企業のM&Aでありがちですが、対象企業の子会社で商慣習上で不正行為やコンプライアス違反が発見されるなど、いわゆる「ディールブレーカー」が発生する可能性もあります。

PMIに向けた課題」とは、実際に買収候補先を自社に統合させる際に必要な作業を抽出することです。買収企業を速やかに統合させ、M&A効果を発揮させるかは重要事項であり、想定している効果が発揮できない場合は会計的には「減損処理」ということで、業績に重くのしかかってきます。M&A効果を1日でも早く実現するために、買収後あらためて統合作業を検討するのではなく、買収前からPMIの課題を抽出しておくことは必要不可欠です。

財務、税務DD以外も実施すべき
5.どういった分野のDDが必要なのか?(DDの分野)

では、どういった分野をDDすべきでしょうか?

「買収価格」が最大の焦点のため、DDというと財務DD、税務DDがイメージされるかと思います。さらに最近は企業コンプライアンスが大きな問題となりますので法務DD、労務DD(労務問題、未払い残業代、退職金制度の状況など)も合わせて実施されることが多くなっています。
ただし、本当にそれらの分野だけで良いのでしょうか?
当社では、上記「買収リスク」と「PMIに向けた課題」を適正評価するためには「ビジネス」、「人材」、「ものづくり」、「IT」に対するDDも重要と考えています。

DDの分野

6.各DDはどのようなことを適正評価するのか?(各DDの内容)

財務、財務、法務、労務以外のDDの内容を見ていきましょう。

ビジネスDD」とは、買収候補先が自社の成長戦略に本当に寄与するか、買収により自社の事業を傾けるリスクをはらんでいないかを見極めるものです。具体的には買収候補先を取り巻く市場環境、競合状況、強みとなるビジネスモデルや技術、その結果となる業績状況、その強みを発揮するための組織体制、コミュニケーションルート、企業風土などを評価します。

人材DD」とは、組織を運営するためのキーマンの状況や、人材が持つスキル、人材を成長させるための育成制度など事業運営の要となる「ヒト」に焦点を当てたものです。これにより事前にキーマンの離職を防止し、買収候補先の社員のモチベーションダウンを防止するなどの対策を検討することにつながります。

ものづくりDD」とは、主に製造業にて実施します。買収候補先のものづくりにおける全体像をQCDと5Sの観点から評価します。これにより設備投資の必要性、現場改善の課題の抽出やコスト削減効果を評価します。

ITDD」とは、ライセンス切れや老朽化対策などITに関する買収後の費用発生を見極めるだけではなく、デジタル化を推進するにあたってのボトルネックを見極めます。いまやAIやIoTなどIT活用は経営にとって必須事項です。思うように業務効率が進まない、買収候補先の業績状況が詳細に見えない、情報セキュリティやITガバナンスなどが整備されていないなどPMIの妨げになることはよくあることです。買収後速やかにPMIを進めるためにも事前にIT上どこに課題があるかを見極めておく必要があります。

DDを実施する工数、費用を考えると必要以上の分野を行う必要はありませんが、事前に「買収リスク」や「PMIに向けた課題」を抽出し、対応を考えておくためにも、「ビジネス」、「人材」、「ものづくり」、「IT」に関するDDも実施すべきと考えます。

DDの成功ポイントは3つ
7.DD実施にあたって何が重要か?(DDの成功のポイント)

DDは通常1か月程度の短期間で実施されます。かつ守秘性が高い活動となり、買収候補先の中でも限られた担当者のみの対応となるため、提示される資料や現場視察は限定的であり、かつマネジメント人材などの買収候補先との直接的な接触も制限されます。
その中で効果的なDDを実施するためには、どうしたらよいでしょうか?

当社の経験から以下の3つが重要と考えています。

①多面的にDDを実施する
②事前にM&A実施の判断ポイントを明確にする
③意思決定に集中する

「①多面的にDDを実施する」とは、上記でも触れました通り、財務、税務、法務だけに限らず、多面的にDDを実施することが重要です。例えば人事制度に関して人事・労務DDの観点では制度の透明性や公平性など労務上の問題を評価しますが、ビジネスDDの観点では、その人事制度の社員のモチベーションの寄与など競争優位上の必要性を評価するなど異なってきます。多角的な観点から評価することで、対象会社における必要性、重要性が見えてきます。

「②事前にM&A実施の判断ポイントを明確にする」とは、買収候補先に求める基準、逆を言えば妥協できる基準を明確にしておくことです。買収プロセスが進むにつれ、買収候補先を必ず買収したい、買収すべきという意識は強くなっていきます。これが企業買収の目的化です。それにより買収リスクが高いにもかかわらず買収してしまう、当初の買収予算を上回って「高掴み」するなど、M&Aに対して冷静な判断ができなくなることはよくあります。それを回避するためにも買収するにあたって事前に判断ポイントを明確にして、それに照らしながら情報を精査していく必要があります。

「③意思決定に集中する」とは、膨大なM&Aに関する作業に忙殺されず、的確な意思決定に冷静にかつ全精力を傾けるべきということです。DDの分野は広く作業ボリュームは膨大です。精神的緊張、疲労と買収候補先への思い入れにより、通常では考えられない感情的な意思決定をしがちです。それを排除するためにも専門家の活用は有用です。多くのM&Aの経験を有している専門家に作業は極力任せ、皆様にしかできない意思決定に注力したほうが、M&Aの効果を上げることができると考えます。

皆様のDD成功に向けて

M&Aは事業成長の重要な手段となっています。
M&Aのプロセスにおいて、買収候補先を適正評価することが重要です。
買収候補先を適正評価するためにDDを実施しますが、買収価格を適性判断するための財務、税務、労務のDDだけではなく、買収リスクやPMIに向けた課題を明確にするためにビジネス、人材、ものづくり、ITのDDも重要です。DDは、短時間での膨大な作業となりますので、多面的にDDを実施すること、事前に判断ポイントを明確にすること、当事者は意思決定に集中することが成功のポイントです。

 

CONTACT US

M&Aや事業承継に関するご相談などは、
お電話またはメールフォームにてお問い合わせください。

TOP