2021.12.17 実施事例
ものづくり事業承継の実例「③事業承継の実行」~取引先をはじめ関係者の理解を得る~
連載コラム | 第三回 事業承継の実行 |
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ものづくり事業承継研究所の清水です。
「ものづくり事業承継の実例」として、2018年10月に、セレンディップグループに参画しました三井屋工業株式会社(以下、三井屋)をひとつの事例として、①事業承継のきっかけ、②事業承継の準備、③事業承継の実行、④事業承継後、⑤事業承継のまとめの5回に分けて、ブログを掲載しており、今回は、「③事業承継の実行」となります。
特に、このシリーズでは、ものづくり事業承継研究所のシニアフェローでもある元オーナーからの視点に着目して記載していきますので、これから事業承継の検討を進めるオーナー経営者の方々のご参考になれば幸いです。
前回までのまとめ
1947年に創業した三井屋は、自動車内外装品製造の事業を行い、トヨタ自動車様はじめ自動車関連企業と取引を行っております。50歳を過ぎた頃から「三井屋をどういう会社に成長させていくのかを考えてくれる事業承継先に三井屋の事業を任せたい」という思いを抱き、自ら事業承継に向けて動き出し、将来を託せる企業として、セレンディップHDとの具体的な資本提携を決断しました。
関係者にご理解を頂く ~円滑な承継を実現するため~
◆取引先様からご理解頂く
野口様は、「三井屋の事業承継は、主要取引先様に十分ご理解頂かなければ、決して上手くいくことはない。」という考えを持っていました。そのため、野口様は、主要取引先様の調達部門責任者に対して、セレンディップHDとの具体的な資本提携の決断をする以前から、自ら説明に伺っていました。
まず、自ら事業承継に動き出そうとする時点で第三者に事業を承継する考えがあることをお伝えした後、事業承継候補先としてセレンディップHDと他1社に絞り込まれた時点、さらにはセレンディップHDを資本提携先として決定する可能性が高まった時点など、丁寧に考え方や進捗をお話したそうです。特に、株主が変わったとしても、安定した経営で必要な投資が実行されることで、引き続き、安定供給を果たすことが出来るかという点を主要取引先としては懸念していましたが、セレンディップHDのこれまでの実績などを説明することでご理解頂いたとのことです。
なお、その後も、定期的に調達部門責任者に対して進捗を報告するとともに、最終契約締結後、クロージングまでの間に他の取引先に野口様自ら説明に伺ったとのことです。
◆株主様から一任を得る
次に、野口様は、株主からの一任を得ることを進めました。資本提携前の株主は、野口様の親族の他に、名古屋中小企業投資育成様や取引金融機関などの法人株主、元役員や現役員などの個人株主でした。順調に事を進めるには、その全員に状況をご理解いただかなくてはなりませんが、野口様に対する信頼により、一任を得ることが出来ました。
クロージング ~時間をかけ協議を行い、より厚い信頼関係を構築~
クロージングを迎えたのは、セレンディップHDとの資本提携を決めてから、8か月かかりました。野口様としては、時間をかけて協議を重ねたことで、セレンディップさんとのより厚い信頼関係を構築できたとのことでした。
◆従業員の方へ説明する
従業員の方には、クロージング後、野口様から、すぐに伝えました。クロージングの4年前、全社員が集まった場で、「今後、創業一族から後継者を出すつもりはない。同族経営から脱皮することになる。良い面もたくさんあるが今までのようにぬるま湯では済まない状況を覚悟してもらいたい」と、事前に話したこともあり、特に大きな動揺もなく受け止めてくれたとのことです。
事業承継に対する野口様の思い
野口様は、事業承継に対する思いを以下のようにお話されています。
「よく、苦しい決断をされましたね、とか、どんな思いで、などとお声をかけていただくのですが、実は私としては、皆さんがおっしゃるような、断腸の思いとか、崖から飛び降りるような勇気、などというのは、まったく感じていなかったのです。会社が大きく成長する可能性を見いだせたこと。父の想いを、少し形は違うけれど、実現に近づけられたこと。その2つに対する、前向きな気持ちのほうが大きかったと思います。」
「改めて、自分は周囲に支えられてきたことを実感します。何より、取引先、株主、従業員、そして家族の理解があったからこそ、特段のトラブルもなくここまでくることができました。本当にありがたいと思っております。」
「事業承継の実行」のまとめ
野口様は、まず、取引先様にご理解頂くという点からスタートされました。必ずしも全ての事業承継に当てはまる法則ではないと思われますが、三井屋が事業を継続する上で、「自動車産業に対する部品の供給責任を果たす」ということが非常に重要であるという点から、まずは取引先様のご理解が必須と認識されていらっしゃったと思います。
ものづくり企業の事業承継では、単に新たな株主に株式を譲渡することだけでなく、供給責任や取引先様からの信頼も合わせて、円滑に引き継いでいかなければ、期待するシナジー効果等を得ることなく、むしろ企業としての価値が毀損してしまう恐れがあります。
事業承継に当たって関係者に理解を得るプロセスが重要であることは言うまでもありませんが、特に、ものづくり企業の事業承継では、取引先様と築いてきた信頼関係を繋いでいくことの大切さをこの事例を通じて教えられました。
次回、本シリーズの連載は、「ものづくり事業承継の実例:④事業承継後」をテーマに記載させて頂く予定となっておりますので、引き続き、よろしくお願いします。
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